
2026年6月22日 17:16
今回のテーマは「社会教育から考える 大学と地域」。地域に根ざした大学の役割や、社会教育を通じた地域づくりの可能性について、登壇者による鼎談を行いました。参加者はそれぞれの立場から意見を交わし、大学と地域との新たな連携のあり方について理解を深める機会となりました。
当日の様子をご紹介します。

▲ 左から:井原徹氏、山本健慈氏、太田政男氏(白梅学園大学 B棟21教室)
本プレ集会は、少子化・人口減少を背景に大学をめぐる政策環境が激変するなか、社会教育の視点から「大学と地域」の関係を問い直すことを目的として企画された。
財務制度等審議会(財務相の諮問機関)は2040年までに私立大学の4割削減を提言しており、一方で「稼ぐ大学」を求める国際卓越大学制度など競争的政策も進んでいる。こうした問題は大学のみが解決すべき課題なのか、あるいは市民社会・社会教育と深く関わる問題なのかを問うた。
今回の集会場所を提供している白梅学園の成り立ちを手がかりとしながら、登壇者各氏による本音の語り合いと相互学習の場を作ることを目指した。

司会の村田和子氏(社会教育推進全国協議会副委員長)が以下の趣旨を説明した。
● 「2040年に向けた高等教育グランドデザイン」(平成30年中教審答申)は、あらゆる世代が学ぶ基盤としての大学の役割を強調している。
● しかし一方では私大の大幅削減が政策的に誘導されるなど、大学は二重の圧力に置かれている。
● これは大学だけの問題ではなく、「市民社会との対話を通して相互理解を図る」社会教育の課題であると実行委員会は捉え、本プレ集会を企画した。
● 白梅学園はその社会教育的成り立ちからも、このテーマを考える最適な場の一つである。
● 登壇者の三氏はそれぞれの人生において深い縁でつながっており、本音の鼎談ができる貴重な機会でもある。
(1)井原 徹氏(白梅学園理事長)

白梅学園の社会教育活動との接点
白梅学園の前身「東京家庭学園」は1942年に創立。設置者の小松兼助が1925年に設立した「社会教育協会」であり、会長に阪谷芳郎(元東京市長)、理事長に穂積重遠(法律学者/『虎に翼』穂高先生のモデル)を擁してスタートした。
1941年の教育審議会答申を受けて翌1942年に「東京家庭学園」と「教育研究所」を小石川に設置し社会教育の実践に踏み出した。「学園の活動と地域との連携活動」を教育の中核に位置づけ、1953年に学校法人 白梅学園として独立した。
大学の起源と学生主体の学び
大学の起源は12世紀のボローニャ大学とされ、「学びたい者(学生)が集まり、拠出金で教師を雇った学生のギルド」が原点である。マーチントロウが指摘したように、エリート向けの選別教育から「誰もが行けるマルチバーシティ」へと変化した現代において、学生が主体的に動く教育の重要性は増している。
白梅学園大学では「地域子育て支援演習」(2014年〜)を全学科に開放された正規科目として開設。学生が「子育て広場」として自ら組織・企画・運営し、地域の子どもたちや親、障害のある子どもたちと交流する。理論と実践を結ぶ地域連携プロジェクトとして機能している。
大学教育と社会教育との接合
社会教育と学校教育を接合する授業科目の工夫が広がれば、社会教育そのものも充実していく。この接合点こそが今後の課題である。
(2)太田 政男氏(大東文化大学第15代学長)

大東文化大学の歴史と学問観
大東文化大学の前身「大東文化学院」は1923年に創設。漢学振興を建学の趣旨とし、大漢和辞典の編集や書道教員の輩出に貢献してきた。太田氏は1976年に着任し、80年前後の民主化・大衆化の過程を経て大学改革に関与した。
「学問と学習の連続性」という視座
太田氏が最も重視したのは学校教育法第83条の「学術の中心」という言葉であった。
学術とは高度な学問研究だけを指すのではなく、学生の学習・地域市民の学習・社会教育における学習を連続したものとして捉えるべきである。
研究する大学と教育する大学を分離する政策には一貫して反対してきた。「国際化と地域連携」を同時に掲げることが大学本来の姿と主張した。
大東文化大学における地域連携の実践
大学では、以下のような地域連携事業を推進してきた。
● 高島平プロジェクト:高齢化・空洞化が進んだ高島平団地に留学生を居住させ、外国語講座の提供や地域活動への参加を推進。地域FM放送の開設や中板橋商店街活性化事業も展開。
● 東松山キャンパスでの地域課題解決共同研究:農業の耕作放棄地対策など市から課題提供を受けてプロジェクト型学習を実施。
● 宮城県東松島市での震災ボランティア:東日本大震災以来継続的に実施。
● 社会教育士の養成:貧困・格差・女性問題・ニューカマー・釜ヶ崎など尖ったテーマで講座を展開。
課題として、学生・教員双方の意識変革の難しさ、地域連携での教員間の軋轢、自治会など地域の担い手の変容を挙げた。
(3)山本 健慈氏(大阪観光大学理事長)

視界不良な大学事情と2100年の視点
山本氏は「2040年ではなく2100年を見る」という長期的視点を強調した。2025年生まれの子どもが2100年に75歳を迎えること、日本の人口が5000万人規模へ向かう中で、現在の施策が将来世代に何を意味するかを問うた。
財務省主導の「締め上げ」政策によって大学淘汰の路線は着々と引かれており、文科省もその流れに乗る形で百余りの学校法人に経営再建を迫る通知を発出している。
新自由主義的淘汰に任せる政策が必要な大学をも消滅させるという理不尽に立ち向かい、市民が必要だと思う大学を作るという選択肢を示し続けることは、シニアとしての責任。
大阪観光大学における実践
大阪観光大学では留学生が全学生の7〜8割を占める。全経理情報を公開し「市民が必要と思う大学を共に作る」という姿勢で再建にあたり経営を行っている。「Fランク大学」などという世評があるが、「偏差値教育」から離脱している若者を育てることこそ、大学の現代的な大きな存在意義だ。
市民が育てる大学・公共財としての大学
1960〜80年代に保育所・高校・図書館・公民館をつくる運動に取り組んだ市民の経験を、「生涯にわたる学習権」の実現として大学づくりへと発展させる可能性を提起した。
● 個別大学が競争するだけでは百年余りの歴史が失われる。
● 「連携・協働」のフレームで地域の私学・国立大学の持続可能性を共に作り出す時代。
● その際に不可欠なのは、自治体の長だけでなく地域市民が大学を公共財として育てるという意識と関与である。
「貧しかった戦後の日本の研究力を支えてきたのは共同利用の精神であり、それを今の高等教育政策、理念は失っている」(元国立天文台・海部宣男氏)という言葉を引用し、連携・協働の精神の再生を訴えた。
(1)私学の構造的課題
井原氏は私立学校法(1948年制定)によって生まれた「理事長」というポジションと従来の「学長」との役割・権限をめぐる対立的構造混乱を指摘。戦前は学長が経営・教学を一手に担っていたが、戦後の制度変更で両者の役割が分離され、今日でも学長と理事長の権限争いが一部各地で生じていると述べた。
大手大学が定員を維持したまま少子化に突入すると、定員数を確保するために偏差値帯を下方にずれ込ませていかざるを得ない。これが連鎖的に下位校を追い詰めることになる構造的問題である。この偏差値雪崩に対して、自校の教育の質をどうしたら維持できるかの工夫・対応が必要となる。(偏差値雪崩)
(2)学生・教員の変容と向き合い方
三氏に共通したのは「目の前の学生をどう育てるか」という実践的姿勢であった。太田氏は出席率が2割だった自分の学生時代と今や8〜9割が出席する現在の学生の違いを指摘し、出席するだけでは本当の学びに届かないという課題を共有した。山本氏は留学生を中心とした17か国の多様な学生が「日本で働きたい、生きたい」という切実な思いを持って学んでいる現実を語り、Fランクとされても学生を劇的に成長させる支援が大学の本分だと述べた。
(3)市民に支えられる大学:フードパントリーと被災地支援
白梅学園理事の細江卓朗氏(山本氏の高校同期)が市民の視点から発言した。東日本大震災の被災地支援で白梅の学生の力を目の当たりにした経験が、理事として大学を支えるきっかけになったと語った。
若いというだけで持っている大きな可能性を、学生自身に気づいてもらいたいというのが私のライフワークになった。
白梅学園では4年以上にわたって毎月「フードパントリー(食料・生活物資配給)」を実施している。コロナ禍でアルバイトができなくなり生活困窮した学生への支援に教員・職員・理事が一体となって取り組む姿が、大学と市民・地域の連帯の一形態として示された。
(4)公民館の廃止と社会教育の課題
太田氏は現在、埼玉県の公民館廃止反対運動に取り組んでいると紹介した。社会教育の活動が最も盛んな地域の一つだった東上沿線(鶴ヶ島・坂戸・東松山・富士見市など)でも公民館が次々と廃止されており、「市民の要求」の弱体化が根本にあると指摘した。
社会教育と大学と市民という三つの関係を同時に問い直さなければ、公民館も大学も地域も守れない。
(5)地域と大学の共同による可能性
山本氏は大学と地域の衰弱、大学の衰弱を個別に捉えるのではなく、両者が連帯して立ち向かう視点を強調した。関西空港開港40周年にむけての勉強会に、利害対立も含む多様な当事者が参加した事例では「ニュートラルな場としての大学」が、多様な事業者の議論を可能にしたことを紹介した。
地域の課題は「論争的・対立的な課題」が多い。大学の「学問の自由」が地域においては「学習の自由」として重なり合い、異なる意見を積み重ねながら共に答えを作り出すプロセスが求められると三氏は口をそろえた。
各氏からのメッセージ
山本氏:
社会教育も大学も永遠に不滅です。理不尽と戦うことは人生の醍醐味。敗れても戦った足跡は残り、後継世代への財産となる。成功で終わる必要はなく、その痕跡を次世代に引き継ぐことが大切だ。
井原氏:
どう表現してどう対処するかは工夫しなければならないと思うが、世の中の変なことを変だと思う気持ちだけは、絶対に失わないでいたい。
太田氏:
今集会のテーマ「考える力を手放さず、権利としての社会教育を地域から実現していこう」、まさに考え続けるというか、考える力を手放さなさない、その姿を皆さんが私たちにお伝えいただいた。
登壇者三氏の姿がまさにそれを体現していたと総括した。
朝岡幸彦氏(C-DGX研究会・白梅学園大学)は、8月1〜2日の第65回社会教育研究全国集会(白梅学園集会)への参加と協力を呼びかけ、今日の集会が「終わり」ではなく「始まり」であることを強調して閉会した。
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キーワード |
内容・文脈 |
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視界不良な大学事情 |
少子化・財政圧力・偏差値雪崩などによる大学淘汰の進行 |
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偏差値雪崩 |
大手大学が定員維持+少子化→偏差値帯の下方連鎖による中小大学の経営危機・教育の質の危機 |
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学術の中心 |
学問研究・学生の学習・地域市民の学習を連続したものとして捉える |
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市民が育てる大学 |
60〜80年代の保育所・高校・図書館・公民館づくり運動の延長線上に大学を位置づける |
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連携・協働 |
個別大学の競争でなく、地域の公共財として私学・国立を問わず高等教育を守る共同 |
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2100年を見る |
2040年政策に縛られず、今生まれた子が75歳になる2100年を射程に入れた教育・社会設計 |
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