
2026年4月 3日 10:53
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。保証人、ご家族や関係者の皆様方におかれましても、このたびは誠におめでとうございます。また、ご多忙の中、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様に、厚く御礼申し上げます。
本学は建学以来ヒューマニズムを理念としてかかげて来ました。これは、本学短大の学長、学園理事長を歴任された樋口愛子氏によって、中世の「神中心」の考え方から脱却し、「人間を大事にする」生き方や価値観を取り戻そうとするルネサンスのヒューマニズムを教育の中心に据えよう、という考え方にもとづくものです。本学では今、自然環境の激変やAIなどの登場を見すえて、このヒューマニズムをアップデートさせようとしています。アップデートする際の一つの柱がGX、グリーントランスフォーメーションという考え方です。これは人間を自然環境の中に位置づけ直そうということなのですが、具体的にはどういうことなのか、少しだけ考えたいと思います。
鷹の台駅から白梅学園へと続く玉川上水の道は、自然が豊かで、木々の緑に囲まれながら歩いていると私たち自身の身体もリフレッシュされるような気になります。しかし雨の日は、その道がひどく歩きにくくなります。靴は泥だらけになり、足元ばかりを気にして歩かなければなりません。しかし、そんな時にしか聞こえない音があったり、道の中で身体と土と水が入り交じったような感覚になる経験をしたことはないでしょうか。
哲学者のダナ・ハラウェイは、私たち人間は、人間だけで独立して存在するのではなく、自然と入り交じった「コンポスト(堆肥)」のような存在だと言いました。コンポストの中では、落ち葉や微生物、水、そして死体が混ざり合い、それが新しい生命を生みだす糧へと変容し続けていきます。つまりコンポスト(堆肥)とは、生ごみや落ち葉が微生物と混ざり合い、分解され、やがて豊かな土へと生まれ変わるプロセスなのです。この春に刊行される本学の雑誌『子ども学』14号にも関係する論文が掲載されるので、授業などでまた紹介します。
ここでハラウェイが言いたいのは、私たちは一人で完成された存在ではなく、誰か他の人や、人じゃなくても自分とは異なるモノや存在と混ざり合うことで、初めて豊かな命を育むことができるということです。
そういう意味では、雨の日の玉川上水もまた、巨大なコンポストだということができます。ぬかるみに足を取られるとき、私たちは自分が地面と切り離された存在ではなく、この湿った生態系の一部であることを強く実感します。
この雨の日の玉川上水のようなコンポストを通じて自然との共生や循環を肌で感じることは、木々や草花の緑を守り、持続可能な未来を創る土台となります。そういう循環や共生を可能にする社会への転換をしないと、私たちの地球は続いていきません。そういう営みをグリーントランスフォーメーション、GXと呼んでいます。
保育や教育の現場もまた、一つの大きなコンポストのようなものです。子どもと保育者、教師、家庭と地域が、それぞれ異なる背景を持ち寄り、雑多な存在として、いわば泥だらけになって関わり合います。
その意味で、保育や教育は、大人が子どもを一方的に導くことではありません。子どもという未知の存在と出会い、共に驚き、共に悩み、混ざり合いながら、自然の循環の中で、新しい関係性を編み出していく営みです。私たちは保育や教育とGXを結びつけることで、そういう新しい関係性を生み出す拠点、つまりコモンズをこの白梅につくりたいと考えています。皆さんがこれまでの人生の中で思い描いてきた教育は、もしかしたらそういうものとはだいぶイメージの違うものであったかもしれません。しかし本学で学び、探究し、研究していくことを通じ、新しい保育、新しい教育の形を共に作り上げていきたいと思います。
これから始まる大学生活も、晴れの日ばかりではありません。計画通りにいかないことや、思い通りに進まず、ぬかるみに足を取られることもあると思います。ですが、効率よく乾いた道を歩いているときには見落としてしまう異質な他者との混じり合いや予期せぬ変化こそが、皆さんを、そして私たちを、豊かな探究者、教育者へと育ててくれます。サークルやアルバイト、学生会の活動など、授業以外の活動もそういう意味ではとても大切です。
ぜひ、泥を厭わず、共に混ざり合い、新しい知性を発酵させていきましょう。
2026年4月1日
白梅学園大学・白梅学園短期大学 学長 小玉 重夫