白梅学園大学

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白梅学園大学 白梅学園短期大学
学長 小玉 重夫

【経歴】

東京大学法学部卒。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了(博士(教育学))。慶應義塾大学助教授、お茶の水女子大学大学院教授、東京大学大学院教育学研究科教授、東京大学大学院教育学研究科長等を歴任し、令和6年4月より白梅学園大学学長、白梅学園短期大学学長を併任。日本教育学会会長。

学長メッセージ

 皆さん、ご入学おめでとうございます。本学を代表して、心よりのお祝いを申し上げます。

本学はジャーナリストの小松謙助や昨年の朝ドラ『虎に翼』で主人公の恩師のモデルとなった法律学者穂積重遠らが中心となり、1942年に東京家庭学園という女子の教養教育の学校として設立されました。本日も歌われる学園歌の歌詞は、東京家庭学園の二期生の作詞によるものです。その後、1953年に『窓ぎわのトットちゃん』に登場する小林宗作の保母養成事業を継承する形で保育士の養成学校として発展し、1957年に白梅学園短期大学、2005年に白梅学園大学子ども学部、2008年に大学院子ども学研究科が設立され、男女共学の高等教育機関として今日に至っています。2022年に学園創立80周年を迎え、今年はちょうど、子ども学部創設20周年にあたります。

このような本学の歩みについてはあらためてお話しする機会もあるかと思いますが、そのなかでも特に重要なのは、本学の建学の理念であるヒューマニズムです。それは、先に述べた創立者の1人小松謙助の娘で、学長、理事長を歴任した樋口愛子らが中心となって練り上げたものです。中世の時代に抑圧されていた古代ギリシアの学問を復興させようというルネッサンスの思想運動の中から出てきた言葉で、のちのフランス革命やロシア革命など、人権思想や革命思想の源にもなったものです。大学や短大で教えられる一般教養の柱になっている考え方でもあります。その基盤にあるのは、今ある社会をあたりまえのものとして受け入れるのではなく、それを疑い、考えるという精神です。

本学は保育や幼児教育、福祉の領域で活躍する人材を育成しようとしていますが、その際にこのヒューマニズムはその土台に据えなければならない考え方であると思います。と同時に、このヒューマニズムの精神を現代における社会の変革を真に担いうるものへとアップデートしていくという課題もあります。

たとえば今、「小学校一年生の壁」といわれているように、保育園や幼稚園を卒園して小学校に入学する際の壁の存在が注目されていますが、それは、子ども個人の問題である以上に、子どもを受け入れる学校、社会や教育全体の問題であるという指摘や研究が出てきています。『朝日新聞』の2024年10月31日の記事によれば、一年間で30日以上登校せず、「不登校」とされた小中学生が、2023年度は過去最多の34万6,482人に上ったことが文部科学省の調査でわかったそうです。これは、前年度より4万7,434人多い数値で、30万人を超えたのは初めてであるといわれています。このような現実を、子どもの個人の問題とだけ見なすのではなく、保育園や幼稚園には通えていたのにどうして学校に行けなくなったのか、そこには子ども自身の問題に帰せられない、学校の側の問題がないのか、ということを、いったん疑い、考えてみることが重要です。つまり、学校のあたりまえを疑うということです。それこそが、ヒューマニズムの精神だと思います。これは、子どもたちの不登校や学校離れが急速に進んでいる今だからこそ、保育や教育、福祉に関わるものにとって最も求められているのではないでしょうか。

このヒューマニズムに関連して、あさって、新入生の皆さんに向けて、杉原まどかさんの講演会を企画しています。杉原さんは、祖父の杉原千畝について話をされる予定です。杉原千畝は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害から逃れようとする多くのユダヤ人を救った外交官です。リトアニアの日本領事館に勤務していた時代に、約6,000人のユダヤ人にビザを発給したことで知られています。当時、日本はナチス・ドイツと同盟関係にありましたので、ユダヤ人のビザを発給するという行為は、日本政府の意向に反するものでした。つまり杉原は、外交官の仕事としてみればやってはいけないこと、政府の意向に反することまでして、ユダヤ人の命を救おうとしたのです。

この杉原千畝と対照的なのが、ナチス・ドイツの官僚であったアドルフ・アイヒマンです。アイヒマンはナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺に関与した人物ですが、そのことの意味を深く思考することなく、上からの指示を疑いもせず受け入れ、その結果、大量虐殺という大きな悪に加担してしまいました。ユダヤ人の政治哲学者であるハンナ・アレントはそれを「凡庸な悪」と名づけています。

つまり、杉原とアイヒマンはどちらも政府の役人として職務を遂行する身でしたが、杉原はその職務命令に疑問を持ち、命令に反する行為をして、結果として多くのユダヤ人の命を救いました。これに対してアイヒマンは、職務命令を疑いもせず受け入れた結果、大量虐殺に加担してしまったのです。ヒューマニズムとは、ここで杉原にあってアイヒマンになかったもの、つまり、物事を疑い、深く考える精神のあり方ではないかと思います。

いまパレスチナのガザやウクライナで起こっている戦争や虐殺をくい止めるためにも、そして、先ほど述べたような学校のあたりまえを疑い、教育のあり方を根底から問い直していく上でも、このヒューマニズムの精神が求められています。それを身につけるということは、答えが一つに決まっている問題を解くような試験勉強とは全く異なるものです。本学での学びを通じて、ぜひ、そういうあたりまえを疑い、深く考える経験を味わってほしいと思います。

あらためて教職員一同、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。

2024年度のご挨拶はこちらをご覧ください

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