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2021年度入学式 学長式辞

2021年4月 5日 17:06

白梅学園大学、白梅学園大学大学院、白梅学園短期大学の入学式 学長 髙田 文子 式辞

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入学式 学長式辞 髙田文子 2021年4月1日

 

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。会場にお越しいただけなかったご家族の皆さまをはじめ、皆さんの今日を支えた関係者の方々に心よりお祝い申し上げます。本日は、これまでのような、皆さんのご家族や来賓を迎える入学式の形態は叶いませんでしたが、それでも主役である皆さんと教職員が一堂に会すことができたことをあらためて嬉しく思います。

 皆さんの多くは、昨年度高校生としての最後の年だったわけですが、苦しく辛いこともさぞかし多かったことでしょう。また、ここにいるすべての人が、新型コロナウイルスという目に見えない脅威と闘った一年でした。

 そして今、新たな春を迎えて、皆さんは、長い学校システムの最終段階である高等教育の扉を開けたことになります。これから、学校としては最後の数年間になるわけですが、それは、その後の社会人としてのステージにむけてのモラトリアムの時間となります。モラトリアムという言葉を聞いたことはありますか?心理学者のエリクソンという人が1959年に提唱したモラトリアムの解釈は、「大人になることの猶予期間」という意味です。この言葉は、ラテン語を語源としていますが、1978年にベストセラーになった精神分析学者小此木圭吾の著書『モラトリアム人間の時代』の影響もあって、何もせずにやる気もなく大人になりたがらないというようなネガティブイメージで使用されたこともありました。しかし、本来は「猶予期間」という意味合いで、経済分野や心理学で用いられています。皆さんは、本学に在学するたった数年間で、これからの時代を牽引する当事者として社会的責任を担う準備をしなければならないということになります。つまり、この社会に出るまでの猶予期間をどれだけ充実させるかが重要なのです。

 数年後にここを巣立っていくときには、皆さんの多くが「先生」と呼ばれ、子どもたちのまなざしを信頼に換える責任ある立場になります。また、子どもに限らず、対人援助職の場合も同様です。これからの数年間で資格を取得するだけではなく、多くのまなざしに応えられるような人格的成長、そしてアイデンティティの形成に努めながらその準備をしていただきたいと思います。

 本学において、皆さんの専門領域となる保育や子ども学は、人間の尊厳を深く理解することが前提となります。本学が掲げる理念である「ヒューマニズム」の精神の話になりますが、これは、白梅学園短期大学の前身である東京家庭学園が、昭和28年に白梅保母学園として発展的解消した際に、掲げられたものです。「ヒューマニズム」の理論自体は、歴史的にも哲学的にも多様な考え方と変遷があり、解釈は一律ではありませんが、本学が継承するその理念は、人間の尊厳を重んじることとともに、その発達のはじめの段階である乳幼児期・児童期を大切にするという考え方です。保育・教育・福祉という無形の対人的学問領域の奥深さに触れながら、時代とともにアップデートしていくことが必要になります。

 大学は、知識やスキルを学ぶと同時に、自己の思考力を高める場所です。つまり、知識や情報を取り込んだうえで、自分ならばどう考えるのか、ということです。

 保育をひとつ例にあげましょう。

 保育園や幼稚園に登園する子どもたちは、今日はどんな遊びを期待して来るのでしょうか。保育は、子どもの昨日と今日、家庭生活と園生活の連続性を想定しながら、展開されます。例えば、砂場で同じ遊びを何日も続けている子がいたとします。皆さんはこの状況をどのように捉えるでしょうか?その子は、砂の感触や動きが気持ちよくて、没頭して楽しんでいるのかもしれません。一方で、遊びが低迷していて、環境変化によるヒントや刺激が必要なのかもしれません。これは、一人ひとりの子どもによって異なります。保育者は、フルに頭を回転させながら、それを経験と見取りから判断し、応答していくのです。その際、園や個々の保育者の保育観をコアにしながら、遊びにおける子どもたちの気付きやつぶやきをキャッチして、子どもの今に寄り添いながら、今後どのような見通しをもって何をすればよいのかを考えていきます。正解がひとつではないからこそ、保育は奥深く、考える価値があるのです。

 例えばこのように、人と関わり、実践とは切り離せない専門領域を軸とする本学においては、リアルに人と対峙したり同じ空間の中で笑い合ったりすることの体験の積み重ねによって、人に寄り添うということの価値を理解していくことが可能になります。

 最後に学校としての大学は、いくつかの機能をもっています。そのひとつは、これからの社会の能動的な形成者を養成するという人材養成機関としての機能です。また、それに付随して、公共性と知的教養を身に着けた市民を形成する役割も重要です。

さらに、個人レベルでは、モラトリアム期にふさわしい人格形成の場であり、そのための空間や居場所の用意が必要になるわけですが、ここの部分が昨年度は、コロナ禍でなかなか設定できなかったわけです。自己形成のためには、たくさん悩み、友人と語らい、ともに時間を過ごすことが必要で、それによって自己が客観視できるのです。今年は、このキャンパスでそれが実現できるように願うとともに、我々も最大限のサポートをしていきます。

 ともに丁寧に一日一日を重ねていきましょう。あらためて教職員一同、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。

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