白梅学園大学
白梅学園短期大学
イベント・トピックス
2019年4月 2日 17:05
入学式 学長式辞 近藤幹生 2019年4月1日
白梅学園大学・白梅学園短期大学・白梅学園大学大学院に入学された363名の皆さん、入学おめでとうございます。そして、入学された皆さんのご家族の方々に、心より、お祝いの気持ちをお伝えします。
私から四点ほど、お話をさせてください。
さきほど、一人ひとりの名前を指名しました。本学では、一人ひとりの「人間への尊厳」ということを大事に考えております。白梅学園の歴史の中で、確かめられ、時代とともに深められていく、ヒューマニズムの精神を建学の理念としています。では、一人ひとりが、尊厳をもつとは、どのようなことなのでしょうか?それは、皆さんの存在、一人ひとりは、他の誰とも取り換えることはできない、というあたりまえの人間観、人に対する見方です。そして、あなたにしかない持ち味がある、ということなのです。
皆さんの中には、そう言われても、自分には、何も取り柄などはないという気持ちがあるかもしれません。あるいは、入学することについて、やや複雑な心情があるかもしれません。もちろん私は、皆さんのいまの気持ちを決めつけたり、変えるべきだなどとは考えません。それでも、あなたには、あなたにしかない持ち味があるし、誰であっても、それを自分の中に発見ができる可能性があるということだけは言わせてください。ともあれ、今日までの生活や経験を通して、ご自身が育んできた大事な気持ちや学びへの意欲を確かめ、あなたらしい歩き方で大学生活を進んでほしいのです。
皆さんの前におられる先生方は、それぞれ専門分野の研究をかさね、教育に懇切丁寧に奮闘くださる多くの先生方です。さまざまな面から、先生方に問うことをしてみてください。私たちは、教員と学生とのコミュニケーションを、瞳のように大事にしていきますので、安心して学びをすすめてほしいと思います。そして、これからの学生生活をサポートする本学の職員の方々も、皆さんの入学を心から歓迎しております。
二つ目は、大学での学びについてです。皆さんは、どのような動機をもち入学されたでしょうか。自分は、「乳児や幼児の保育について学びたい」「学童期の子どもの教育をめざしたい」「特別支援教育に関心がある」「発達や心理のことを深く学びたい」「社会福祉の学びに力を入れたい」「子どもの文化や歴史を深めたい」「高齢者の介護について知りたい」など、さまざまな内容があると思います。まだ、漠然としていて、どうしたらよいかと思っている方がいるかもしれませんが、大丈夫です。これからが、スタートなのです。
いま、「保育や教育」「心理と発達」「特別支援」「福祉」「歴史や文化」「介護」と言いました。それぞれ、専門分野の学びにかかわることです。学問分野としては、違いがあります。「異なる専門性をもっている」といってよいと思います。では、それぞれ違う分野だけれども、それらに共通することは何だと思いますか?これは、クイズではありませんから、すぐに答えはでません。ゆっくりと思考をかさねてほしいのです。私の考え方ですが、それらに共通することの一つは、人間、人に関する学問分野だということです。皆さんが、二年後、四年後に卒業する時の職業として考えると、人間を相手にする仕事になります。人を対象とする分野をめざすとき、どのような力量が必要なのでしょうか。専門分野に関する知識や技術は不可欠になります。でもそれだけでは、十分とは言えません。ではどのようなことが必要なのか、考え続けていってほしいのです。
いまの社会を特徴づけることばとして、たとえば「AI社会」ということが言われます。人間社会が創り出してきた、人工知能などの科学技術の進歩には、めざましいものがあります。ここに、大いに関心をもって学んでほしいと思います。ところで、AI社会、人工知能によって、将来、多くの職業がなくなってしまうともいわれます。ここは、さまざまな議論があり、簡単には答えや結論はでないといえます。しかし私は、子どもや人間を対象とする学問分野、あるいは職業にこそ、光があたる時代になりつつあるといえるのではないかと考えています。新しい科学や技術に関心を持ってください。そして、こうした時代だからこそ、人間を対象とする保育、教育、心理、福祉分野の専門的な学びを、豊かにすすめる意義があると考えています。子どもや人間を、広く、深く考えていくためには、教養の学びのもつ役割が、とても大事になってきていると思います。
大学での学びについて整理すると、専門的知識・技術の修得が大事であること、新しい技術の革新に関心を持つこと、そして、歴史や文化などの幅広い教養の知も必要になってくるということです。
抽象的なお話になりましたが、皆さん自身は、いまの動機からすすんで、一つ一つ、焦らずに、学びと理解を広げていきましょう。
三つ目は、白梅学園の歴史を少し紹介します。白梅学園は、今から77年前、1942(昭和17)年に東京家庭学園としてスタートしました。第二次世界大戦末期という時代で、1945(昭和20)年3月の東京大空襲によって、施設が焼失してしまうなど、苦難の歩みがありました。戦後、学園は再建されますが、当時の記録の中には、学科目リトミック、教員名に小林宗作があります。小林宗作は、日本の保育・幼児教育の歴史において大事な役割を果たしてきました。フランスのパリにおいてダルクローズにリトミックを学び日本リトミック協会を設立し、日本での普及に努めたのです。黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』に登場するトモエ学園の校長先生が、小林宗作です。黒柳さんによると、「君は本当はいい子なんだよ」と言い続けてくださった、このことばがどんなに、支えてくれたか計り知れない」と言っています。前の学校ではいわば不登校であった、黒柳さんの話を、校長室で四時間近くも聞き続けてくれて、「じゃあ、これで、君は、この学校の生徒だよ」と言われたそうです。教育は本来的に自由であり束縛はあってはならないことをかさねて主張していたのです。この小林宗作が、戦後間もない時期に、白梅の教育に関与したわけです。こうした自由な気風が、本学の歴史の中でも、大事にされてきているといえます。
その後、1957年(昭和32年)白梅学園短期大学、2005年白梅学園大学、2008年白梅学園大学大学院を設立し、今日に至るわけです。この春、本学を卒業した先輩たちをはじめ、社会の各分野において活躍しております。こうした諸先輩の優れた教育を受け継ぎながら、人間の尊重、ヒューマニズムの精神は生き、発展していくといえます。はじめに言いましたが、一人ひとりの人間の存在は、限りなく尊いということ、その命をつないでいくことが白梅学園の役割だと思います。いま、創立八十周年に向かって、教育・研究のさらなる充実を目指しています。ぜひ、学園の歴史を共に学び深めていきましょう。
四つ目、最後にお話ししたいのは、「自分から」という能動性です。「誰かが教えてくれるから」ということではなく、「自分から動いていく」という積極性をもってほしいのです。率直に「尋ねてみること」です。これは、入学以前とは大きく異なるので、戸惑うことがあるかもしれません。何を学ぶのか、どのような授業科目を選ぶのかなども、自分から履修登録することが必要です。それが大学だと考えてください。そもそも、大学・短期大学・大学院の場は、学問を研究する場です。学問という文字を頭に思い浮かべてください。「問うことを学ぶこと」ということです。「なぜだろうか、どうしてだろうか」と自分で問いを立てて研究していくこと、「真理を探究していくこと」です。場合により、「自分はこう考える」という意見を発信することも、ぜひチャレンジしてみてください。
もちろん、皆さんは、一人ひとりが主権者で、選挙権を行使することができます。
今、広く社会を見つめていくと、児童虐待、待機児童問題、子どもの貧困、いじめや不登校問題など複雑なテーマ、大きな課題としては、憲法の改正をどうするか、民主主義のあり方まであります。皆さんは主権者として、自身の考えをもつことが求められているともいえます。それぞれのペースで、積極的に学生生活をスタートさせていきましょう。在学生、先輩たちもいます。そして、私たち教職員も精いっぱい応援していきます。
終わりになりますが、本日、お忙しい中、ご来席いただいている来賓の皆様方に、心から感謝するとともに、2019年度の白梅学園大学・白梅学園短期大学・白梅学園大学大学院への一層のご支援をお願いしまして、学長式辞とさせていただきます。
2019年4月1日
白梅学園大学
白梅学園短期大学
白梅学園大学大学院
学長 近藤 幹生
(参考文献)
・黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』講談社 2015年8月
・白梅学園短期大学『白梅学園短期大学創立25周年記念誌』1982年9月
・白梅学園短期大学『白梅学園短期大学創立50周年記念誌』2009年6月