白梅学園大学
白梅学園短期大学
イベント・トピックス
2019年3月16日 17:05
卒業式 学長告辞 近藤幹生 2019年3月15日
白梅学園大学子ども学部子ども学科、発達臨床学科、家族・地域支援学科の卒業生の皆さん、白梅学園短期大学保育科の卒業生の皆さん、白梅学園大学大学院子ども学研究科修士課程・博士課程修了者の皆さん、卒業、修了、おめでとうございます。心からお祝いいたします。
いま、一人ひとりの想いを噛みしめ、白梅の卒業生であることの誇りを胸に、新しい一歩を、すすんでください。
皆さんは、2015年4月大学に入学、2017年4月、短期大学に入学しました。
当時の出来事を少しだけ振りかえってみてください。2015年4月1日の新聞記事一面には、「子ども・子育て支援新制度」のスタートとあります。新制度は開始されるが、保育園にまだ入れない。「いつになったら入れるのか」と親たちが自治体に要請する記事がありました。
2017年4月はどうでしたでしょうか。一面には「教材に教育勅語、否定せず」とあります。教育勅語は、戦後、国会で排除決議がされた事実があること、そして1890年の教育勅語全文が掲載されています。他の分野の記事としては、将棋の藤井四段、デビュー以来十四連勝、スポーツ欄では、フィギア浅田選手が引退とあります。世界の記事では、北朝鮮の核・ミサイルの挑発がやまないという記事もありました。
こうした内外の動向のなかで、2015年から、あるいは2017年から、皆さんは、学生生活を過ごしてきたことになります。現時点で四年前、二年前を振り返ってみたのは、なぜでしょうか?それは、こうした社会の動向に対して、主権者として「自分の考えをもつ」ことを大事にしてほしいからです。「自分の考えをもつ」ということ、英語ではthink for oneself ということです。
「自分の考えをもつ」ということ、ことばでは簡単に聞こえるかもしれません。でも、ずいぶん多様な内容に関わります。他者との協調することを大事にしたい方もいるでしょう。それも、「自分の考えをもつ」ことの一面です。では、流行語にもなった忖度(そんたく)ということば、どうでしょうか。このことばには、相手に先回りし、しかも従うことを前提にする意味合いがあります。これを、皆さんは、どのように、考えますか?
国際問題、あるいは複雑な、内外の諸現象などをどうみるかといわれても、簡単なことではないかもしれません。しかし、いま、どう考えているのか、自分の考えをもってほしいのです。これまで、皆さんは、専門分野は異なりますが、保育、教育、心理、福祉などの側面から、学びを深めてきたはずです。その土台には、社会や自然、歴史や文化といった教養について考える機会があったと思います。こうした学びは、子どもや人間、あるいは社会の動向を深く認識しようとする際の知性ともいえます。入学後、憲法を学ばれたと思います。いま、憲法や民主主義、平和ということについて、どのように考えるか、大きく問われています。自分は、どう考えるか、主権者として関心をもってほしいのです。一人ひとりの立場や意見が異なるのは、あたりまえです。互いの生き方や見方を、尊重しながら、対話をかさね、こうしたテーマについても自分なりの思考を深めてほしいのです。「自分の考えをもつ」ためには、多くの方法があるでしょう。例えば、家族、友人、先生方、それぞれの考えに耳をかたむけることも一つの方法です。自分より、若い方の表現に学ぶことも大事だと思います。たとえば、子どものことば、あるいは子どもの表現です。2014年、沖縄県の六歳、あさとくんが詩を書き、絵本作家・長谷川さんによって『へいわってすてきだね』という絵本が誕生しました。「へいわって、なにかな、ぼくはかんがえたよ」で始まる絵本です。
2018年6月、やはり沖縄で、中学三年生の相良さんが平和の詩「生きる」をつくりました。
「私は手を強く握り、誓う。奪われた想いを馳せて、心から誓う。私が生きている限り、こんなにもたくさんの命を犠牲にした戦争を、絶対に許さないことを。もう二度と過去を未来にしないこと(略)
(2018年7月29日「朝日」)「私は生きている」で始まるこの詩は、決して感情を一方的に吐露したものではありません。中学三年生の彼女は、学びをかさね、自らの考えを、ことばを選びながら整理し、問い続け、表現したわけです。若い世代のことば、表現する力に、心を打たれます。こうしたことばにも耳をかたむけ、「自分の考えをもつこと」に力をつくしてほしいと思います。
さて、皆さんが学び、本日、巣立っていく白梅のキャンパス、この小平の地。ぜひ、記憶にとどめてほしいことを、二つだけお伝えしておきます。
一つ目は、白梅学園は、多くの先輩たちと地域の方々の力が束ねられて、築かれてきた歴史をもつということです。1942年、社会教育協会によって設立された東京家庭学園が母胎で、今日まで七十七年の歴史があります。小児科医である内藤寿七郎先生が樋口愛子先生のことを紹介しています。1968年から1974年まで学長を務めることになった樋口先生の奮闘ぶりを書いています。先生は、この土地を訪ね歩き、十人以上の地主さんに、教育の必要性を訴え、白梅学園が都内からここに移れるように、特に地域の文化にとって、白梅学園の存在が、どんなに大事かを話して歩いたとのことです。お金も、権力もなくても、人間味あふれることばで協力を得ていかれたそうです。こうした歴史をかさね、小平の地に白梅学園のキャンパスが実現してきたわけです。歴史を築いてきた多くの先輩たちは、いま、社会の各方面で活躍されています。そして本日、卒業する皆さんも、この白梅、小平のキャンパスで学び、歴史を築いてきている主人公であることを、忘れないでほしいのです。
二つ目は、本学の白梅という名称についてです。白梅学園の学園歌にある「雪ともまごう白梅」を根拠とするわけですが、寒風の厳しさのなかで、春に先駆けて咲く白梅の花を、みなさんはどう考えるでしょうか。私たち一人ひとり、あるいは人間社会の春、未来を導く意味がこめられているといえるのではないでしょうか。白梅学園の前身東京家庭学園の校歌を作る際、生徒から歌詞を募集し、栗田道子の詩が選ばれたのです。白梅学園短期大学創立五十年の記念碑が、すぐ近くにありますので、是非確認してください。
短期大学保育科の皆さん、二年間は、どのような時間でしたでしょうか。学びを通して、互いに切磋琢磨しあう経験の積み重ねだったのではないでしょうか。とりわけ二年次は、ゼミナール研究のまとめや就職活動があり、緊張の連続を経験し、新たな道への入り口に立っている、そんな思いで、本日を、迎えているのではないでしょうか。
大学子ども学部の子ども学科・発達臨床学科家族地域支援学科の皆さん、四年間は、ご自身にとって、どうでしたでしょうか。四年間の学び、研究の集大成としての子ども学会への取り組みはどうでしたか。これまでの自分、そしてこれからの自分がどうあるべきか、ぜひ、対話してみてほしいと思います。過去の事実を見つめること、失敗や苦い思い出があるかもしれません。もちろん、事実を変えることはできません。でも、未来への生き方をどうめざすかにより、過去の意味する内容は、いくらでも変えられます。新しく創造できるのではないでしょうか。
大学院子ども学研究科修士課程・博士課程を修了し、修士・子ども学、博士・子ども学の学位を手にした皆さん、新たな学問追究への意欲を胸に、研究への次の目標を見つめていることでしょう。保育や幼児教育の質的向上、子ども学のさらなる深化をめざす専門職として、また実践現場のリーダーとして、あるいは自立した研究者としての道を、堂々と歩いてほしいと思います。
短期大学、大学、大学院の皆さんは、白梅学園の一員としてここで学び、過ごしてきました。しかし、これから歩いていく道は、一人ひとりちがいます。期待とともに不安もあるでしょう。でも、私は、皆さんが、自ら思考をかさね、自律的に判断し、前進していくはずだと確信しています。なぜなら、仲間たち、先生方や職員の方との出会いを通して結ばれた、絆が、エネルギーの源(みなもと)となっているからです。きょうは、一人ひとりの表情が、それぞれに、美しく輝いております。どうぞ、自信をもち、第一歩を進んでください。
終わりになりますが、卒業される一人ひとりの学生の皆さんを、支えてこられた、ご家族の方々に、心より、お祝いを申し上げます。二十代前半は、多感であり、かつ試行錯誤の面があります。しかし、悩みや迷いをかさねながら、自立していく姿は、とても頼もしいものがあります。卒業生の姿から、ご家族の中で育まれてきた暖かい人間性を感じざるを得ません。かさねてお喜びを申し上げるとともに、今後とも白梅学園を見守り、支えていただきたいと思います。
本日、お忙しい中、ご来席されております多くの来賓の皆様方に対しまして、厚く、御礼を申し上げます。学校法人白梅学園理事長・小松隆二先生におかれましては、19年以上にわたりまして、白梅学園理事長として、学生たち、教職員を導いてこられました。先生は、毎年、さまざまな機会に、戦前からの白梅学園の歴史とヒューマニズムの精神を語られました。卒業される皆さんや、今後の白梅学園を築いていく私たちにとっても、歴史を学び未来を創造する意義を、忘れずに確認していきたいと思います。ここに、深く感謝の気持ちをお伝えさせていただきます。
以上をもちまして、2018年度(平成三十年度)卒業式・学位授与式の告辞といたします。
2019年3月15日
白梅学園大学
白梅学園短期大学
白梅学園大学大学院
学長 近藤 幹生
(文献・資料)
・2015年4月1日 朝日新聞
・2017年4月1日 朝日新聞
・2018年7月29日 朝日新聞
・安里有生・長谷川義史『へいわってすてきだね』2014年6月 ブロンズ新社
・白梅学園『樋口愛子先生追悼録』1977年10月
・白梅学園短期大学『白梅学園短期大学創立25周年記念誌』1982年9月
・白梅学園短期大学『白梅学園短期大学創立50周年記念誌』2009年6月