白梅学園大学

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白梅学園大学 白梅学園短期大学
学長 小玉 重夫

【経歴】

東京大学法学部卒。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。慶應義塾大学助教授、お茶の水女子大学
大学院教授、東京大学大学院教育学研究科教授、東京大学大学院教育学研究科長等を歴任し、令和6年4月より白梅学園大学学長、白梅学園短期大学学長を併任。

学長メッセージ

 皆さん、ご入学おめでとうございます。本学を代表して、心よりのお祝いを申し上げたいと思います。


 皆さんの多くは、新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るった時代に中学、高校時代を過ごされた世代にあたります。コロナ禍では日常生活や学校、職場で多くの人が不自由を強いられ、コロナがなかったら得られたであろう楽しみや喜びを経験することができないことも数多くありました。特に、人生で一度しかない中学、高校時代にコロナに直撃された皆さんの世代がコロナ禍で受けた影響は私たちの世代からは想像できないほどのものだったのではないかと思っています。感染拡大が一段落したいま、私たちはコロナ禍で受けたダメージや傷を回復すべく努力して参りたいと思っておりますので、少しでも気になることがもしあれば身近な教職員に相談していただければと思います。

しかし一方で、コロナ禍を経て私たちはそれ以前には予想できなかったコミュニケーションの方法を獲得することもできました。Zoomなどを使ったオンラインでのコミュニケーションは会議や授業に、家にいながら出席できる可能性を飛躍的に高め、私たちの学び方や働き方に大きな変容をもたらしています。また、海外の人とつながる可能性も飛躍的に高め、高いお金を払わなくてもオンラインで海外の人とのミーティングや国際会議が可能になりました。

 そして何よりも重要なことは、昭和の時代以来続いてきた一発芸を強いられる宴会や忘年会、学校の部活動などでの先輩と後輩、職場での上司と部下との間の厳しい上下関係などが、コロナ禍での接触制限によってかなりの程度一掃されて、その面ではある程度は自由な社会になったということです。とはいえ、昭和の時代以来続いている不適切なコミュニケーションや人間関係を取り囲む文化が完全にアップデートされたかといえば、決してそうではありません。女性やマイノリティに対する差別はまだまだ根強いですし、世界経済フォーラムによる男女格差の現状を各国のデータをもとに評価した2023年のジェンダーギャップ指数では、日本は146カ国中125位と過去最低を記録しています。学校での管理主義や教育格差の現状も決して改善されているとはいえません。私たちにはこのような昭和の時代に形成されてきた価値観をアップデートしていくという課題があり、特にそれは、新しい世代である皆さんの手に委ねられているのではないかと思います。

 昭和の時代というのは、今の40歳代以上が経験した時代で、1925年から1989年まで続きました。歴史学者のホブズボームは第一次大戦の始まった1914年からソビエト社会主義連邦が解体した1991年までを「短い20世紀」と表現していますが、昭和の時代はほぼこの短い20世紀に対応しており、したがって、昭和の価値観をアップデートするということは、20世紀の価値観をアップデートすることだといってもいいかもしれません。そして20世紀的昭和の価値観を代表するものの一つは、皆さんが受けてきた学校教育なのです。

 たとえば、みなさんは、保育園や幼稚園のころまでは好きだったのに、小学校に入ってから嫌いになったものはないでしょうか。いろいろあると思うのですが、私自身にとって、それは体育でした。幼稚園から小学校低学年ぐらいまではスポーツや体を動かすことが好きで、体育の時間も楽しみな時間でしたが、小学校の3年生か4年生ぐらいのころから、体育の時間が急に苦痛になりました。能力が測定され、その差によって振り分けられるようになったからだと思います。皆さんはどうでしたでしょうか。

 もう一つ、皆さんは、学校で先生から「好きな人同士でグループを作って下さい」とか、「誰とでもいいから二人一組になってください」といわれて、いやな気持ちになった経験はないでしょうか。昨年フジテレビ系列で放映された生方美久さん脚本のドラマ「いちばんすきな花」が2人組になることが苦手な4人の関係性を丁寧に描いていました。このドラマにも出てくるのですが、学校という場所は人を強制的に集団に溶け込ませようとする圧が強く、溶け込めない人の存在は否定されている感がいので、「好きなひと同士で」とか「2人一組に」といわれることが、そういう圧力、あるいは権力として伝わってしまうのではないかと思います。

 20世紀的昭和の価値をアップデートするということは、このような学校のあり方を変えていくということを意味します。その際のポイントは、一人一人の存在をかけがえのないものとして認めるということに尽きるのではないかと思います。本学が掲げるヒューマニズムの理念は、まさにこの、人間一人一人をかけがえのない存在として認めるというところから出発しています。本学では、ヒューマニズムの視点を絶えずアップデートしつつ、その視点にたって、保育園や幼稚園のころまでは好きだったものが小学校に入ってから嫌いになってしまう20世紀的な学校教育のあり方を変革し、一人一人がかけがえのない存在として認められる社会のあり方を探究するために、全国に先駆けて「子ども学」という旗を立てて、研究と教育の活動を行い、その研究拠点としての地位を築いてきました。

 いま世界ではウクライナやパレスチナの戦争で多くの人が犠牲になるなど、ヒューマニズムに反する事態が進行しています。そういう時代だからこそ、本学が掲げるヒューマニズムの理念に立脚した子ども学という旗は、ますますの重要性を持ってきています。皆さんもこれからぜひその輪の中に入って、一緒に研究と実践を積み重ねていきましょう。

 あらためて教職員一同、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。

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