白梅学園大学/白梅学園短期大学

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【学長室だより】随想 身近な喜び 「自然と人との共生」を考える公園

随想 身近な喜び 「自然と人との共生」を考える公園 学長 近藤幹生

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随想 身近な喜び 「自然と人との共生」を考える公園
白梅学園大学・白梅学園短期大学学長 近藤 幹生

 通勤するとき、公園の端を歩いてから、バス停へ向かう遠回りをしていた。気がつくと「きょうは、キンモクセイの匂いがしているな」、「アオゲラのドラミング(樹木をつつく音)が聞こえる」などと確かめていた。当初は、そんな短時間の公園散策であった。
 週末に時間がとれるとき、ゆっくり公園内を歩くようになった。小さい池があり、マガモの親子が泳いでいる。親鳥のあとから5~6羽の雛鳥が付いて行く姿はほほえましい。小さな看板に“水鳥は、池の中の泥を嘴で突いて、自分で餌を食べる。こうして生きる力を身につける。だから、お菓子などを投げ与えないでほしい”など、子どもにもわかりやすい科学的説明がある。野鳥のカラー写真(シジュウカラ、ヤマガラ、エナガなど)と生態の解説もある。季節にもよるが、望遠レンズ付きのカメラを構えた人たちが増えてくる。カワセミが現れるので、撮影のタイミングを辛抱強く待っているのだ。池の中央に伸びた枝先にとまり、水中の餌をめがけて飛ぶカワセミの姿、不思議な色(空飛ぶ宝石といわれる)とスピード感に目を奪われたことがある。いつしか、時間さえできれば公園で自然と出会うようになった。大げさではなく、この地で過ごせる自分は幸せものだ、と考えたりもした。
 これまで、子どもの保育や教育にかかわる仕事をしてきたが、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』(上遠恵子訳、新潮社)を繰り返し開くようになった。一部を紹介する。
「わたくしは、子どもにとっても、どのように子どもを教育すべきか頭を悩ませている親にとっても、『知る』ことは『感じる』ことの半分も重要ではないと固く信じています。子どもたちが出会う事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。」(24頁)
「自然にふれるという終わりのないよろこびは、けっして科学者だけのものではありません。大地と海と空、そして、そこに住む驚きに満ちた生命の輝きのもとに身をおくすべての人が手に入れられるものなのです。」(54頁)
 スピード社会などといわれてきたが、人間の生活や生き方を見直すヒントは、身近にあるのかもしれないと考え始めている。「センス・オブ・ワンダー」とは、「神秘さや不思議さに目を見はる感性」であり「世界中の子どもたちに、生涯消えることのない」(23頁)感性を授けてほしいというのである。子どもたちが「なぜだろうか」「どうしてだろうか」と問うこと、時間を費やした自由な経験こそが大事だ、ということだろう。
 この公園は、子どもや大人たちの安心できる遊びの広場でもある。歩き疲れて、ベンチで眺めた親子の姿を再現してみよう。2歳前後の子が、両親を振り返りながら、広い草地をどんどん進んでいく。ときどき、姿勢をくずし転んでしまう。また立ち上がり、先へ先へと進んでいく。おとうさんもおかあさんも笑って、わが子を見守っている。ずいぶん遠くまで行ってしまったようだ。そのうち、“こっちだよーこっちだよー”と手を振って合図してあげる。気がついたのか、親たちの元へ戻りはじめたようだ。ところが、大きめの水たまりがあった。おとうさんはあわてて、走っていったが、間に合わなかった。その子は水たまりに入って、さらに転んで全身びしょびしょになった。何とかおとうさんに抱きかかえられて戻り、ずぶ濡れの衣服を着替えさせてもらった。その後、シートに座り親子で食事をはじめていた。何気ない若い両親と幼児との光景である。“ごくろうさま”と心でメッセージを送りながら、少し考えてみた。
 子どもが力いっぱい体と心を使い遊ぶこと、転びながら自分から進むことなどは、1・2歳児の成長・発達に欠かせない経験だろう。子ども自身がチャレンジする、転び躓きながら進む。ワクワク、ドキドキした気持ちも経験しただろう。人間形成の土台を築く幼児期にこそ、こうした「子どもの時間」が保証されることが大事だと考える。両親にとっても、安全な遊びの広場で、週末のひとときを過ごす、楽しい経験の積み重ねがされていく。
 どうやら、私たち大人の側が、「子どもの時間=ゆっくりとした生き方を再発見」する、いわば「自然と人間との共生」をめざすことの意味を深く考える必要がありそうだ。
 この公園は都市部にあるが、貴重な雑木林などの豊かな自然環境が維持されている。若い親子はじめ、異世代の人たちが時間を過ごせる安心できる広場である。ウォーキング、ランニング、体操やヨガを楽しむ人たちもいる。「自然と人間との共生」を考える契機となった公園だが、行政をはじめ公園関係者の粘り強い努力が継続されていることは言うまでもない。心から感謝しペンをおく。


『向上』No.1306 2020年12月1日 発行:公益財団法人 修養団(SYD)

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